第2回(1979年)日本アカデミー賞
最優秀作品賞 事件
大岡昇平の原作による裁判劇で、佐分利信、芦田伸介、丹波哲郎というベテランの芸達者たちが裁判長、検事、弁護士を演じて凄い迫力だ。空想形式で犯罪の場面が展開するドラマ術も巧い。被告の青年(永島敏行)は、二人の姉妹(松坂慶子、大竹しのぶ)に同時に愛され、姉のほうを殺した容疑で起訴されたのだ、それに姉のほうのヒモだったチンピラ(渡瀬恒彦)がからみ、男女の愛憎の激しい葛藤を盛りあげてゆく野村芳太郎の演出の力量はまさに円熟の極致である。(松竹)
最優秀監督賞 野村 芳太郎
ずっと松竹にいて娯楽映画づくりに専念。決して観客をあきさせないというエンターテインメントの確かな技術で、サスペンスもの、喜劇、メロドラマ、時代劇など数多い作品を手がけてきた。なかでも松本清張ものに傑作があり、「張込み」「砂の器」、そして今年度の「鬼畜」ほか、多くの映画化作品がある。「事件」のドラマの盛りあげの絶妙さを見ても、この監督の演出力の非凡さがうかがえるが、もう60歳に手が届くのに、少しも衰えぬエネルギーは驚嘆に値する。
大島 渚(愛の亡霊 )
田中 登(人妻集団暴行致死事件/好色五人女 )
藤田 敏八(危険な関係/帰らざる日々 )
山田 洋次(男はつらいよ 寅次郎わが道を行く/男はつらいよ 噂の寅次郎 )
最優秀脚本賞 新藤 兼人
事件
今や監督として押しも押されもせぬ存在の新藤兼人だが、脚本家としては昭和14年の「南国女性」を第一作として、現在までコンスタントな執筆活動をつづけているのだから、これほど長いキャリアをもつ人も少ないだろう。戦後は先輩の溝口謙二の作品から、吉村公三郎など同世代の監督たちの脚本を受託、松竹大船をやめてからは自らの主宰する近代映画協会で脚本、監督で活躍、その雑草のような作家的エネルギーは、60代後半の現在、「事件」でも全く衰えを見せていない。
井手 雅人(ダイナマイトどんどん/鬼畜 )
寺山 修司(サード )
野上 龍雄・松田 寛夫・ 深作欣二(柳生一族の陰謀 )
藤田 敏八・中岡 京平(帰らざる日々 )
最優秀主演男優賞 緒形 拳
新国劇の出身であり、テレビではNHKの大河ドラマ「太閤記」の秀吉、「源義経」の弁慶など、庶民的な持ち味はあっても結局は堂堂たる男っぽさで勝負してきた緒形拳が、ここではなんとも情けない小心の男を演じた。妻と愛人の間に立ってビクつき、置きどころのない三人の子供を抱えてウタウタし、これはウジウジしたダメな男の典型ともいえべきものだった。しかしそういう演技を通して、観客に人間の弱さに対する共感を与えたのは、やはり彼の芸の力量だったという外はない。
渥美 清(男はつらいよ 寅次郎わが道を行く/男はつらいよ 噂の寅次郎 )
永島 敏行(事件/サード/帰らざる日々 )
萬屋錦之介(柳生一族の陰謀 )
渡瀬 恒彦(皇帝のいない八月 )
最優秀主演女優賞 大竹 しのぶ
NHK朝のテレビ小説「水色の時」のヒロイン役で女優としてデビューした大竹しのぶは、その素直な愛くるしさで若い娘役を演じ、その後もずっと人気を得てきた。だが映画初出演の東宝作品、浦山桐郎監督の「青春の門」では、炭坑で食いつめ、親に死なれ、キャバレーで働き、身を落としてゆく娘を演じ、汚れても純真さを失わない持ち味が絶妙だった。「事件」では、そのかわいい外見のなかに、愛のためには偽証でもするというしたたかさを見せ、また大きく成長した。
梶 芽衣子(曾根崎心中 )
谷 ナオミ(薔薇の肉体 )
松坂 慶子(事件 )
吉行 和子(愛の亡霊 )
最優秀助演男優賞 渡瀬 恒彦
「皇帝のいない八月」で剃刀のようなシャープな迫力を出した渡瀬恒彦が、「事件」では女のヒモで生きているチンピラやくざを演じ、これが奇妙に人間的な魅力を発散していたのだ。法廷に証人として喚問されると、ふてくされ、ドスのきいた声で、検事を翻弄するような答弁をする。だが一方、女を次から次と取りかえ、働かせて食う、そんな底辺の生き方に徹しているチンピラを、渡瀬はユーモアをたたえて演じた。彼の芸域も広がったものだと、舌を巻く思いだったのだ。
嵐 寛寿郎(オレンジロード急行/ダイナマイトどんどん )
田中 邦衛(ダイナマイトどんどん )
千葉 真一(柳生一族の陰謀 )
夏木 勲(冬の華/野性の証明 )
最優秀助演女優賞 大竹 しのぶ
大正期の信州で、学校の教師と愛し合いながら、身分違いのためにその恋をあきらめなければならない。「聖職の碑」での大竹しのぶはそんな古いタイプの女を演じた。そしてそんな女を演ずると、なんとも可憐でいじらしい。主演女優の項に記した「事件」での彼女の、愛を貫くためのかなりしたたかな強烈さとは異質のようだが、しかし「聖職の碑」での彼女も、男と引き裂かれてもじっと胸の炎を絶やさぬだけの強さを持っているのだ。いよいよ女を多面的に演じられる女優になった。
小川 眞由美(鬼畜/燃える秋 )
香川 京子(翼は心につけて )
左 幸子(曾根崎心中 )
宮下 順子(ダイナマイトどんどん/雲霧仁左衛門 )
最優秀音楽賞 武満 徹
燃える秋/愛の亡霊
武満徹の映画音楽第一作は昭和31年に故中平康監督が日活で撮った「狂った果実」であり、ハワイアンとジャズの効果が、新鮮な印象を与えた。もともと、純音楽の作曲家である武満は、その後も篠田正浩、市川崑、羽仁進など一流監督の映画音楽を担当しながら、自らの音楽の実験を試みてきた。今回の小林正樹監督「燃える秋」では内容に合わせて珍しいほど甘いムードを出し、大島渚監督「愛の亡霊」ではおどろおどろした人間の業のようなものを音楽で表現しようとしている。
芥川 也寸志(鬼畜 )
伊福部 昭(お吟さま )
佐藤 勝(皇帝のいない八月 )
林 光(聖職の碑 )
最優秀技術賞 川又 昂(撮影)
川又昂が一本立の撮影監督になったのは、昭和34年の野村芳太郎監督作品「どんと行こうぜ」によってである。その後、松竹ヌーベルバーグの台頭で「青春残酷物語」など大島渚監督作品でも注目された彼だが、大島去ったあとも彼はずっと大船に留まり、とりわけ野村作品との結びつきは深い。最近でも「砂の器」「八つ墓村」など、ずっと撮影を担当してきたが、今回の「事件」「鬼畜」でリアルな映像感覚を見せ、撮影のドラマに及ぼす力を充分に認識させたのである。
井川 徳道(美術)(柳生一族の陰謀/日本の首領/冬の華 )
岡本 健一(照明) (愛の亡霊 )
木村 威夫(美術)(お吟さま )
宮島 義勇(撮影)(愛の亡霊/赤穂城断絶 )
安田 哲男(録音)(愛の亡霊 )
最優秀外国作品賞 家族の肖像 CONVERSATION PIECE
ローマの豪邸で静穏な余生を送る老教授(バート・ランカスター)の所へ、ビアンカという女(シルヴァーナ・マンガーノ)とその娘、そして美青年コンラッド(ヘルムート・バーガー)などが突如として住みつき、教授の生活がかき乱される。が、もう枯れきったようだった老齢の教授が、コンラッドとの間に不思議な共感をおぼえ、生きる情念が燃え立つのを覚える。故ルキノ・ヴィスコンティ監督が、自らの晩年の心情を教授に託して、堂々たる筆致で描き抜いた傑作である。(東宝東和=フランス映画社)
愛と喝采の日々 THE TURNING POINT
グッバイガール THE GOODBYE GIRL
スター・ウォーズ STAR WARS
未知との遭遇 CLOSE ENCOUNTERS OF THE THIRD KIND
※ 各受賞者(作品)の解説文は日本アカデミー賞公式サイトからの引用です
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